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リハビリみたいなもの

えっとですね……このブログに来てくださってる方の中では、わかってくださってる方が多いものと勝手に思っていますが。
私、オンではモノカキとして活動しております。ただ、最近はすごく調子が悪く、何も書けないことが続いてます(´・ω・`)
で、リハビリ……とは違うかもですけど、うちのオリキャラである白瀬悠さんの過去話をちょっと書いてみました。
時期的には、中学3年の2~3月あたりですかね……一番荒れてた時期。

とにかく言いたいのは……お酒とたばこは二十歳になってから。

さて、以上のことを踏まえて、大丈夫という方は追記からどうぞ。
*****



それは、何気ない一言だったのだろう。

「しっかし……お前って男のくせに手え綺麗だよなー。手タレとかできるんじゃねえの?」

飲み屋で偶然会って話し込んでいた時に、ふと、隼人がそう口にした。
ただ事実を言っただけ、特に意味があるわけでもない、そんな言いぐさだった。
女の手のように細くも柔らかくもないが、確かに隼人の手とくらべれば、さほど節くれだってもいない。が。

「いや……手タレは無理だろ、流石に」
「えー、悠ならいけるって。指長いし、細いし」
「ないない、それはない」
「だって綺麗なんだもんよー」
「お前は俺を何だと思ってるんだ。冗談はやめろ、気色悪いから」
「冗談のつもりはねえんだけどなぁ……」

肩をすくめて、隼人はまたビールをあおった。

「少なくとも綺麗な方だとは思うぞ? 趣味で音楽やってて、力仕事とかしないからか?」

力仕事。その単語に、ふと、引っかかりを感じた。
軽い調子の言葉だったが、そこからある記憶が引き出される。

「……いや、やっぱ綺麗じゃない」
「は? どうした急に」

隼人が言う『力仕事』は、重い荷物を運ぶだとか、そういうもののことだとは思う。
だが、俺の頭に浮かんだのは、まったく別の事柄だった。

……誰にだって、口に出したくない黒歴史の1つや2つ、あると思う。
それが笑い話で済むようなものなら、まだいい。
俺の手が綺麗だ? 冗談言うな。
そりゃ、隼人の言うように、力仕事をせずに音楽……それもDTMばかりやってりゃ、繊細な手にはなるだろうさ、見た目はな。
つまり俺の手がそう見えるのなら……それはあくまで、見た目だけなんだ。



―Xerophyte―



俺は小さい頃、それはもう気の弱い子供だった。
名前でからかわれるのが嫌で嫌で、幼稚園に通っていた頃は、泣きながら帰宅する事もしばしばだった。
そんな俺とは対照的に、従姉の美憂はやたら気が強くて、ままごとをするよりは、男子と走り回っている方が好きな奴だった。
……よくもまぁ、あそこまでおとなしく成長したものだ。というか、あれをおとなしいと感じてしまうのだから、昔はどれだけ暴れまわっていたのか……。

ともかく、俺と美憂は当時家も近かったので、よく遊びに行ったし、あいつもよく遊びに来た。
からかわれてはしょっちゅう泣く俺に、「女みたいだと言われたくないなら、もっとしゃきっとしろ」と怒ったりもした。
そんな美憂がびーびー泣くところなんて見たこともなくて。幼い俺にとって彼女は従姉というより実の姉のような存在で、憧れでもあった。
あいつの前でも胸を張って堂々としていられるような、そんな大人になりたいと思っていた。


「……くっだらねえ」

あの頃から10年ほどがたった。
ゲーセンの入口近く、喧騒の中で誰も聞いている人間がいない事を承知で、呟く。
美憂を慕う感情に対する言葉ではない。のんきにそんな事を考えていた昔の自分に対する嘲りだ。
今のこの様を見ろ。何が憧れだ。何が胸を張っていられる大人になるだ。
……笑わせるな。

放課後にそのまま来たせいで、中学の制服のままだが、構わずにポケットに手を突っ込んで煙草を取り出す。
未成年、しかも過呼吸持ちのくせに喫煙なんて、良くないなんてものじゃない事くらいわかっている。
それでも、やめようとは思わなかった。どうすればいいのかわからなかったんだ。
ただ、夏に南海にフられてから、自分の行動が全て無意味だとしか感じられなくて……とにかく何もかも忘れたかった。
煙草も酒も、ガラの悪い連中とつるむのも、それがただの現実逃避だと理解できていても、少しだけ、気が楽だった。

「……おう兄ちゃん、そこで何してる」

不意に聞こえた太い声に、俺は顔を上げる。
何歳か年上と思われる男だ。着崩した服装から見るに、煙草を吸っている学生を注意しようとしている善良な市民、ではないらしい。

「いけねえなあ、それはガキのおもちゃじゃねえんだぞ? 学校が終わったらさっさと家に帰らねえとダメだって教わらなかったか?」

明らかな上から目線で言い放つ男を、ちらりと見上げて、溜め息と一緒に苦い煙を吐き出す。
俺はガタイがいいわけじゃないし、仲間内でもおとなしくしている方だ。実際、腕っぷしもそれほど強くない。
だからこうしてナメられて、カツアゲの標的にされたり喧嘩を売られる羽目になる。
めんどくさいな。ただそう思っただけなのだが、相手の目には挑発と映ったらしい。

「っのクソガキ、ナメてんじゃねえぞコラァ!」

怒鳴りながら、胸ぐらを掴もうとでもしたのか、腕が伸びてくる。ナメてるのはどっちだと言いたいが、堪える。
……もう一度言おう。俺はガタイがよくはない。腕っぷしも強くない。
だから。

「は……?」

喧嘩になったら、相手の手を避ける事に集中する。

伸ばされた右腕を上へ払いのけて、がら空きになった彼の鳩尾に肘を叩き込んだ。
腕力がなくとも、急所の一点に打撃を加えれば、それなりのダメージを与えられる。
思惑通り、息を詰まらせて体を折る男に、さらに足払いをかけて地に転がす。

……俺の喧嘩はいつもそうだ。初撃を仕掛けてくるのは向こう。それをかわしてカウンターが決まれば俺の勝ち。かわせなければ俺の負け。
相手が俺をナメているから通用する手ではある。今の相手の腕も、払いのけるのにさほど苦労しなかったし、肘鉄を食らわせるのも楽だった。

「っと、危ねっ……」

重力に従って落ちてきた男の腕に、煙草の先が触れそうになり、慌てて腕を掴んで阻止する。
根性焼きなんてする趣味はないし、無駄に怪我をさせて、俺にメリットがあるわけでもない。

「ったく、どいてほしいなら最初からどけって言えよな……」
「てめ……ざけんじゃ……!」
「白瀬、そこで何してんだ?」

突然男の悪態を遮った、先ほどと似たような問いに、意識をそちらに向ける。
ゲーセンの中から、つるんでる奴らの1人の顔が覗いているのを見て、俺はだいぶ短くなった煙草を落として靴底で揉み消した。

「悪い、俺、先に帰るわ。先輩にも言っといてくれ」
「? おう」

訝しげにしながらも了解の意を示してくれた彼に軽く手を上げて、その場に背を向ける。後ろから聞こえてくる男の喚き声には、聞こえないふりをした。

「……しんどいなあ」

吐き出された言葉が、俺の足を重くする。
喧嘩は苦手だ。勝って相手をボコっても、負けてボコられても、どちらにしてもめんどくさいだけだ。そこに達成感や優越感なんてものはない。代わりに、虚無感と倦怠感がつきまとう。
派手に動かないのも、知らないうちにこっちから喧嘩を売るのが嫌なだけ。
自分でも、自分が荒んでるとは思ってる。たぶん、こういうのを中二病と言うのだろうとも。
だが、俺にはどうしようもない。

「しんどいなあ……」

もう一度呟いても、余計にしんどくなるだけで、それ以上何かを言うのをやめる事にした。
春先にしては冷たい空気の中、吐き出される白い息は、なんだか煙草の煙のようで、顔をしかめた。


「ただい、ま……」

帰宅すると、いつもより靴が1人分多かった。
見覚えのあるその靴に、少しだけ、どきりとする。

「おかえりなさい」

俺が帰ってきた事に気付いたのか、母の声が聞こえてくる。

「美憂ちゃん、来てるわよ」

すぐ後に続いた言葉に、俺は内心で舌打ちした。
最近彼女も忙しくて、会っていなかったのだが、どうやら修羅場は脱したとみえる。
だが……あいつが俺の現状を知ったら(というか母が喋っている可能性が大だが)、何を言い出すか大体想像がつく。
……説教はもう聞き飽きた。会いたくない、なんて思うのは初めてだった。
とりあえず制服から着替えよう。そう思って自室のドアを開ける。

「や、久しぶり」

開けた途端に声がして、俺は思わずその場で固まる。

「……なんで俺の部屋にいるんだよ」
「何だっていいじゃないの。久々に会ったってのにつれないわね」

ベッドに腰掛けたまま、美憂は苦笑して肩をすくめ、直後、さっとその笑顔を消した。

「……叔母さんから聞いたわよ」
「そうか」
「否定しないのね」
「否定してどうにかなるもんじゃないだろ。それより、着替えるから出てってくれ」

半ば投げやりに言うと、美憂は何か言いたげにしたが、結局何も言わずに立ち上がって出て行こうとした。
しかし、俺の横を通り過ぎようとしたところで、急に立ち止まる。

「……何だよ」

さっさと出てけと言いたいのをぐっとこらえて問うと、美憂は鋭く睨み上げてきた。
ここまで険しい目をする彼女はほとんど見たことがなくて、少しだけ驚く。

「悠、あんた何か隠してるでしょう。出して」
「は?」
「いいから出して」

口答えは許さないと言わんばかりの勢いだ。この様子では、しらを切っても、強引にポケットを探られかねない。
俺は今度こそ小さく舌打ちして、ポケットの中の煙草とライターを手渡した。

「……悠」
「何だよ」
「どういう事、これ」
「……見りゃわかるだろ」

いちいち答えるのも面倒で、適当な返事を返すと、美憂の顔から血の気がひいた。

「……返せよ」
「ダメ」

きっぱりとした口調に、いらっとする。

「返せっつってるだろ。別に美憂に迷惑かけてるわけでも……」

ぐしゃり。
その音が何か気付く前に、反射的に体が動いた。
煙草の箱を握り潰した拳が、そのまま俺の顔面目掛けて飛んでくる。
いつものくせで腕をいなして避けると、その勢いで美憂の背後を取った。

(……やべ)

そのままの流れで美憂のこめかみを殴り抜こうとしていた事に気付き、焦って拳を引こうとするが、その必要はなかった。
俺がかわしたと見るや、美憂は思いっきり俺の右足を踏んづけたのだ。
思わず怯んだところに、今度は振り向きざまに殴りかかってくる。
そこに、不良共のような慣れなんてものはない。ただ闇雲に暴れているだけの、無駄が多いとすら思える動き。
だがそれ故に、どうかわせばいいかわからない。

「なんか妙なにおいがするからまさかと思ったけど、本当にこんなものに手を出してたなんてね!」
「それが何だよ、今時、煙草を吸ってる中学生なんて案外多いぞ」
「んな問題じゃないわよ、馬鹿! 自分から発ガン物質を吸ってるようなものだって知ってるでしょ?! 何を死に急ぐような事してんのよ、馬鹿じゃないの?!」

手加減なしに次々殴りかかってくる美憂がそう叫んで……。
俺は、自分の頭の中で何かがぶつりと切れる音を聞いた。

「うるさいな、関係ねえだろ!」
「あるわよ!」
「どこに!」
「んなこと自分で考えなさい!」
「何だよそれ?!」

一言口に出すたびに、美憂の腕が空を切る。

「人の気も知らないで、あんたは……っ!」
「っ……ふざけんな!」

いつの間にか、部屋の扉からベッドの際まで後退させられていたが、怒鳴ると同時にこちらから一歩踏み出す。

「人の気も知らないで、何だよ?! これだけ気にかけてやってんだからそれに報いるのは当然ってか?!」
「誰もそんな事言ってない!」
「同じだろ! 俺がいつ心配してくれって頼んだ?! いつ慰めてくれって頼んだんだよ?! 言えよ、お前はいつまで俺のお守りを続けるつもりだ!」

頭の中が真っ白でほとんど何も考えられない。
ただただ、込み上げてくる衝動に任せて、言葉を吐き出した。

「ほっといてくれよ、俺はもうお前にべったりな子供じゃない! ウザいんだよ、そういうの!」

頭に血が上ったまま、拳を握る。
相手が女だという事も、ましてや自分の従姉だという事も、その瞬間は忘れていた。
――彼女が、本気で怒っていた事さえ。
忘れていた。何もかも。

思えば、そのおかげで俺は助かったのかもしれない。
何も考えずに振りかぶった拳が何かに当たる前に、美憂のハイキックが側頭部に叩き込まれていた。
蹴り自体は隙だらけだった。だが平静でなかった俺には、かわすのは難しかったらしい。

「がッ……?!」

蹴られた衝撃で脳みそが揺さぶられ、目の前で星が飛んだ。
バランスを保てずよろめいたところに、さらに右ストレートが顎をかすめて肩口にヒットする。
とっさに体制を立て直せずに、俺はそのまま床に倒れ込んで頭をしたたか打ち付けた。

「いっ、てぇ……!」

思わず呻いて、間を置かずに物理的な重みを感じた。
見上げると、美憂が俺の胸の上あたりに馬乗りになっている。
そこまでして殴りたいか。そう思わなくもなかったが、口には出さずにじっとしていた。
殴られるだけの事をしたと理解していなかったわけではないが、それが理由ではない。もがくのもアホらしいと思っただけだ。

本来なら、押さえ込まれた時点でボコボコにされていてもおかしくない。
久々に喧嘩で負けた相手が美憂か。女に殴り合いで負けたって言ったら、先輩がどんな顔をする事やら。
……まあ、どうでもいいや。
そんな事を考えながら、俺は漠然と美憂を見上げていた。

「……ばかっ」

一声叫んで、美憂が握った拳を振り下ろす。
痛みを覚悟して無意識に身を強ばらせた俺の肩に叩きつけられたその手が、"ぽすり"と音を立てた。

「……?」

あまりに軽い音と衝撃に戸惑っている間にも、次々と力のないげんこつが降ってくる。

「おい……?」
「ばか、ばかばか、悠のばかっ」

俺の呼びかけにも応えず、美憂はひたすらぽかぽかと殴りつける。
彼女の声は妙に震えていて、気付いた途端ぎょっとした。

「は、悠が、荒れて、るって、聞いてっ……わ、わたし、あんたが、何か危ないこと、やってるかもって、思って――!」

さっきまでの威勢は跡形もなく消え失せ、ぼろぼろ涙を流していた。
――小さい頃、美憂が泣くところなんて想像できなかった。それは今も同じだったらしい。
暴れて、喚いて。まるで小さな子供みたいな泣き方で――泣かせてしまったのだなと思うと同時に、体が冷えていくような感覚をおぼえた。

「わ、わ、私、悠の話、聞いてたのに! こ、こうなる前にっ、何かし、してあげられたかも、しれないのに! 悠がやってる事、何も知らなかった!」

涙を拭うこともせずに、ぐしゃぐしゃに顔を歪めて、しゃくりあげながら喚き散らす。
自分が何を言っているかわかっているのだろうか、だんだん話が筋を失っていく。

「教えてく、くれなきゃ、わかんないでしょ! こんなの、頼っ、て、逃げるくらい、ならっ、教えてよっ! つらいって言ってよ! わた、わたし、」

いつの間にか拳も止んで、美憂はひくりと喉を鳴らして俺を見た。

「こ、怖かったぁ……!」

どこにそんな水分が残っていたのか、ようやく落ち着いてきていた美憂の涙が、ぶわっとあふれる。

「ばか、悠のばか」
「……ごめん」
「謝った、って、許してやんない、心配かけないで、ばか」
「ああ。ごめんな、バカで」

ひたすら謝る俺を、涙目の美憂が睨むが、もう迫力も何もあったもんじゃなかった。
ようやく美憂が泣き止み、俺の上からどいてくれた時には、明るいうちに帰ってきたのに外が真っ暗になっていた。

「ほら」
「ん、ありがと」

泣き止んだものの、未だにぐずぐずと鼻をすすっている美憂に、乱闘中に叩き落とされて床に転がっていた箱ティッシュを差し出す。

「……ごめんね、みっともないとこ見せちゃって」
「いや、気にしてない。俺の方こそ、」
「やめてよ、私のわがままなんだから。そりゃ、未成年で飲酒喫煙その他諸々はいただけないけど、ちょっと強引に言い過ぎた」
「言い過ぎってこともないだろ。警察に補導されそうになって逃げたこともあるし」

そんな言葉を交わしながら、先ほどまでの美憂の主張を思い返す。
どうやら彼女は、俺が誰も頼らずに勝手に塞ぎ込んだ事がショックだったらしい。
ふられた時のごたごたは言うなと言っていたから、自分の両親には相談していないかもしれないとは思っていたが、幼い頃から一緒に育ってきた自分にも、何も言われなかった事が悔しかったんだそうだ。

「ほら、悠って昔はからかわれてばっかりだったじゃない。そのたびに『みゆうねーちゃん』って頼ってくれるのが、ちょっと嬉しかったんだよね。私、一人っ子だし」

だから、俺が困った時に頼れるような、しっかり者のねーちゃんになりたかったのだと美憂は言った。

「勝手な話だよねー。悠に頼ってもらえないからって、1人で落ち込んでさ。叔母さんから話を聞いた時は、あんたが何をしたいのかわかんなくて、どうなっちゃうんだろって、怖かったけど……結局キレちゃった」
「キレちゃったって……軽く言うなあ」
「何、重っ苦しい方が良かった?」
「何故そうなる」

俺の態度に、美憂はようやく少しだけ笑った。

「でも真面目な話、煙草もお酒も、どんなリスクがあるかちゃんとわかった上で、それでもやりたい人はやればいいと思うんだ、私。自分で自分の体や周りの事にきちんと対応できる人ならね。でも悠は周りはひとまずおいておくとしても、自分の事だってまだ上手く始末できないでしょ」
「はは……」

返す言葉もなく、俺はごまかすように苦笑いするしかなかった。

「だから、ほら」

言いながら差し出された手に、思わずぽかんとする。上を向いて開かれたその手の上には、ひしゃげて潰れて原形を留めていないタバコの箱。

「あんたが大人になって、自分の体の事くらいは自分で何とかできるようになって、その時にまた吸いたくなったら私は止めない。だからこれは今はとっておきなよ。私が持っていても仕方ないし」
「……バカかお前は」

煙草をやめさせようとして、一区切りついて落ち着いたらその相手に煙草を返すなど。何を考えているんだこいつは。そう思った時には声に出ていた。
言われた美憂はというと、やや気分を害したようにむっとした顔を作った。

「いいじゃない、自己責任でやるならどうぞって言ってるんだから。その責任も取れないうちにやらかすんじゃ……」
「わかってるって。だからさ……やっぱ美憂にやるよ、それ」

俺の言葉に、美憂は目を瞬かせて、すぐにじとりとこちらを見た。

「私が煙草吸うと思うわけ?」
「まさか。そんなんじゃねえって。俺がゴミ箱に捨てても、目に入ったらまずいと思うんだよ」

箱の中には、恐らく箱と同じように折れ曲がってしまった煙草があるのだろう。俺の記憶では残り2、3本だった。残り少ないんだから、と気持ちがぐらつく可能性は、大いにある。

「自分でも、それに頼ってたのはわかってるからさ。多分、手元にあったら吸う気がする」
「……禁煙するんだ」
「自分の始末もできないうちから喫煙すんなって言ったの、美憂だろ」
「や、素直に言うこときいてくれると思ってなかった」

ぽかんとした顔のまま、美憂は俺を見上げている。……そういえばいつの間に身長を抜いたんだっけか。

「別に、気を紛らわせたくてやってただけだから。いい機会だし、やめる」
「……大変だと思うよ? 私も手伝わせてもらうけど……」
「は?! あ、いや、そんな気を使わなくてもいいっつうか、その……」
「ん?」

不思議そうにこちらをうかがう彼女に、俺は自分の爪先を睨んで、口を開いた。

「……ありがとう。すげえ助かる」

それは、相手の顔も見ず、ほとんど聞こえないような大きさの、とても感謝していると思えないような――そう思われても仕方ないような、そんなありがとうで。
素直に礼を言うこともできないのか俺は。そう考えて無性に逃げ出したくなってきた。

「ど……ういたしまして?」

俺の様子に戸惑いでもしたか、不思議そうな顔のまま、美憂は首を傾げる。
そんな彼女に、俺はつい吹き出しそうになるのを抑えて、持っていた携帯灰皿をゴミ箱に放り込んだ。


それからも何かと大変だった。
まず禁煙。軽い気持ちで灰皿も捨てたし、手持ちの煙草を手放すまでは上手くいったが、吸わなくなってしばらくすると結構つらい。思っていた以上にニコチンに依存していた自分に愕然とすると同時に呆れたものだ。未成年者の喫煙がどうこうなんて話、正直なところさほど気にしていなかったが、なるほど、確かによろしくない。
それでもなんとかニコチン中毒から脱しても、気を紛らわすものがなくなった以上、原因は変われど、イライラがつのるという結果は変わらなかった。

高校に入ったのもこの頃で、文化部運動部関係なしに、片っ端から体験入部を繰り返したが全部やめ、クラスメイトともあまり喋る気になれなかったし、向こうも寄ってこず。それがカッコつけてると思う奴もいたのか、つるむ相手はいなくなっても相変わらず喧嘩は売られた。避けるのも面倒なので売られた喧嘩は全部買った。

とにかく、ストレスを発散させる方法なんて喧嘩しかなくて。イライラに耐えられなくなってきた頃に美憂に吐き出したら、気がついたらまた殴り合いになっていた。こればかりは言わせてもらうが、話を聞いた彼女が真顔で「殴れ」と言ってきたのが悪い。
勘違いをしないでほしい。当然躊躇ったし、実際最初は殴れなかった。女の顔に傷ができると一生残ると聞いたことがあるし、当時美憂には彼氏がいたから、尚更殴るなんてできない。
……と言ったら、納得したように1つ頷いた彼女にいきなりぶん殴られたのだ。理不尽だろうと後から聞いたところ、自分相手に妙な気を使うな、そのまま溜め込んでまた腐るくらいなら全部ぶつけてこい、身内なんだからそれくらいする、との事だった。やはり理不尽というか、滅茶苦茶じゃないか思ったが、口に出すことはしなかった。

まあそのおかげで……否、そのせいで彼女も妙なスキルを体得してしまったらしく、美憂が彼氏と喧嘩別れした時、その彼はボコボコにされたらしい。あれ以来会っていないし別れるきっかけを知らない故かもしれないが、少しは俺のせいでもあるので流石に彼には同情する。ぶっちゃけた話、いつの間にそう考えるに至ったのかはわからないが、今でもあいつには喧嘩を売りたくない。


「思えば、困らせる事しかしてねえなあ……」

酔いつぶれてしまった隼人を自宅まで送り届けて、1人で夜道を歩きながら呟く。
高校時代、美憂とは何度言い争ったかわからない。俺は周りなんか見えていなかったし、巻き込んでしまったばっかりに、美憂は未だに男が寄ってこない。気付けばあいつももうすぐ三十路だ、結婚願望もあるだろうに。

「借り、返したいけどな……そうしたらまた返ってくるんだろうなぁ」

この10年でわかったが、あいつにとっては、親戚間のすったもんだなんぞ、貸し借りのうちに入らないらしい。せめて殴ってしまった分くらいは返したいが、それを言うと殴られたいのかと訊かれそうで、言っていない。これがボケでなく本気だから恐ろしい。

「……はあ」

考えてみればみるほど、美憂には頼りっきりで情けなくなってくる。頼った事そのものではなくて……。

「シスコンなのか? 俺」

口に出して、死にたくなった。
美憂は姉ではない、しかし俺にとっては実姉に等しいし、そういう意味では彼女の事は昔から大好きだ。今もそうだと言っていい。
……それをシスコンと表現して何の違和感もなかった自分に絶望した。

「はー……しんど」

思考に疲れて、いつかと同じ言葉を吐く。それが、あの時とはまったく違った響きを持っていて、少しだけ安心できた。
高校時代、いやな思い出がほとんどではあるが、他にする事もなくて勉強は真面目にやっていたのが幸いしたのだろう。今はこうして職もある。友人とこうして飲みに行けたりもする。

「……あ」

ふと顔を上げると、10メートルほど先だろうか、歩いていく背中が2人分。それが誰のものか即座に理解して、思わず笑みがこぼれた。

2人も一緒に飲んだ帰りなのだろう、片方は肩を貸されている。
あいつの事だ、また調子に乗って飲み過ぎたに違いない。彼女1人で支えて連れて帰るには、少々骨が折れるだろうに。
もっとも、本人にそれを言うと、馬鹿にするな、このくらい平気だと返ってくるのだろうが。
少し不機嫌そうな顔を想像しながら、俺は彼女に手を貸すべく、歩く足を早めた。

まぁ……美憂に何か返そうとしても、あいつは受け取ってはくれないようだし。だったらせめて、誰かに迷惑ばかりかけてきたこの手で、誰か手助けしてやりたい……幸せにしてやりたいと思うくらいは、いいよな。
もっとも、その正否を判断するのは、俺ではないのだけれど。

俺は彼女たちに追いつくべく、少しだけ足を早めた。


*****


タバコとお酒についての私の意見は、大体作中で美憂さんが言ったとおりです。自分で責任をとれるのなら、やりたい人はやればいい。危険性は十分理解してるはずなんですから、止めるのは返って押しつけがましいというものです。
喫煙者は非喫煙者に気を使うべきだとは思う、けどそれと同じくらい、非喫煙者も喫煙者に気を使ってもいいんじゃないかなあとも思うんですよね。煙とにおいがうざいなら近寄らせない前に近寄らなければいい話ですし。

とまあ……堅っ苦しい話はこれくらいにして。今回のタイトルについて。
Xerophyte、サボテンです。
刺だらけで素手で不用意に触ると痛い思いをすることも多いです。私は軽くですが怪我したこともあります……。
で、そのサボテンの花言葉ですが。
「熱情」「偉大」「内気」「暖かい心」「風刺」「枯れない愛」エトセトラエトセトラ。あったかい言葉が多いです。
トゲトゲした昔の悠さんと、それからちょっと落ち着いた現在の悠さんを思いつつ。サボテン、でした。
今さらですが、なんだかんだ言って悠さんは美憂さん大好きです。現在進行形でお世話になったりしてるのもありますが、すげえ慕ってます。もう一人の彼女は言わずもがな。……名前は出してないですけど、だいじょうぶだったかしら(殴


……これがきっかけで書けるようにならないかな……今回も長く書きすぎた気がするし←
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